土という自然のものを扱い、かつそれを表現へと昇華したプロジェクトを数多く行なっているが故ということもあるが、自然の表現を求めている方が、それこそ自然なカタチで橋本左研に辿り着くことが多いそうだ。
イタリアやデンマークの星付きレストランで経験を積み、食材を活かすイタリア料理や北欧の発酵料理の調理法をベースに置きながら、日本人の味覚に合わせた、新たな「食体験」を生み出しているRestaurant Naz。このオーナーシェフ・鈴木夏暉さんもその一人だった。海外の経験を活かしたトリッキーな料理を提供し驚きに重きを置くガストロノミーとは一線を画し、扱う食材や生産者さんと密にコミュニケーションを図り、季節の変化や自然の移ろいや何とも言い難い揺らぎを、食を通して表現している。
なので、使用する食材もレストランを構える軽井沢近郊の生産者さんの手間暇をかけたものを使っている。だからといって、食材に塩を振って油でシンプルに炒めるといったように安易に食材の良さに甘んじることは一切ない。彼が表現したいのは、メインとなるその食材が育った「環境」そのものを料理で表現することなのだ。その一点に対して真剣にこだわる姿や瞳の中に映る情熱は、まさにプロフェッショナルという言葉を体現しているかの如く、本気を感じるのではないだろうか。そんなRestaurant Nazの店舗が移転リニューアルすることになり、内装の土壁の表現について橋本左研に白羽の矢が立ったという訳なのだ。




Restaurant Nazが食で表現している自然の移ろいを最大限に感じてもらうべく、空間として表現したかったのが、自然の時間の積み重ねだったそう。そこで橋本さんが提案したのが、自身の個人プロジェクトとして形にした小屋製作で使った手法でもある『版築』の技術を使い店内に地層を製作してしまおうということだった。
そもそも、地層というものは自然界が人間の手を借りずに途方もなく遥かな時を重ねて蓄積されたもの。だから、それを人間の手によって作り上げるというのは地層のように土を上から叩き詰める『版築』とて、不可能に近いはずだ。けれど、橋本さんが修行時代からコツコツと貯めてきたさまざまな土地ごとの気に入った複数の種類の土のコレクションを使い、異なる種類の土を混ぜそれらをランダムに叩き詰めることにより、自然のそれのように法則性がなく作為の無い自然体の美しさを表現しようという試みであった。
高さ約3mにも及ぶ広範囲を版築で土を叩き詰めること、「言うは易く行うは難し」ということわざが、このためにあるのではと思わされるほど、難しいプロジェクトに肉体的にも精神的にもなったものの、仕上がりを目の前にしたら圧巻だった。その壁の前に立てば、あたかも自身が地中の中に潜り込んで、本物の地層の断面を眺めているのでは、と錯覚してしまうほどの質感を有していたのだった。人が作ったとは到底思えないような自然の時間がそこには確かに刻まれていた。
自然の感覚を食と土と追い求めているプロフェッショナルの“真剣”がぶつかり合うことで想像を超える何かが創造された瞬間だったのだ。
若きシェフ・鈴木夏暉さんが繰り広げる、軽井沢の新鮮食材と北欧で培った発酵技術や食材を活かすイタリア料理を駆使したレストラン。調味料や動物性脂肪に頼らず、素材本来の味わいを引き出す料理は驚きと感動の美食体験となるだろう。
料理人の情熱、哲学、独創性にフォーカスし、食べる人の心を震わせる料理人のオイシイにスポットを当てたamazon prime videoのドキュメンタリーシリーズ「The art of plate」では、鈴木夏暉さんの料理やRestaurant Nazに対する情熱や姿勢を感じることができる。