009_技の先にあるもの

words :

Kensuke Iwai

料理にも左官にも技というものが必要になってくる。
特に左官というものは一般の人にとって縁遠く、自らそれを行うということはゼロに等しい。だから技術こそが全てなのだと思われるだろう。けれど、橋本さん曰くそうではないらしい。

私という意味の『I(アイ)』と愛情や想いという意味での『愛(想い)』。
この二つの『私(I)/愛(想い)』を切り口に、左官と料理というフィールドの異なる者同士の会話の中で、MaruCafeの真理さんは「日常の日々の仕事という意味だと“わたし”はないかもしれない」と語る。本人が無意識に持つ『私(I)/愛(想い)』だからこそ、周りには逆にそれがはっきりと伝わるのだろうか、その真意と二人の技の先にあるものの現在地を見ていきたい。

 

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岩井(以下I):来てくれたお客様に対してこういうものを受け取って欲しいということはあるんですか?

 


真理さん(以下M)
:具体的にこれっていうものはないですね。私がイメージしていることは、MaruCafeを始めた頃から自分が地元に帰って作った小さなお店で誰も不幸にならないような小さな経済システムという名の循環を自分なりに表現して、その中で来てくれた人が元気になって帰って欲しいなというくらい。そこに食べ物や飲み物あって。飲食するものは何かを繋ぐツールだと思うんですよね。料理はツール。だから始める時に料理学校とかは行かなかったんですよね。それよりも、もっと社会が知りたい。そこでどんなことが行われていているのかを。生産されるものも食材に限らず場所によってその場所ならではのものがあるから、農家さんの畑が一番の学校だと思って手伝っていたりもするんですよ。でも、技術は大事だと、今思っています。

 

 

I:この新百姓vol.002にも書いてありますよ。料理は知の技、技術と芸術この3つですと。

 

 


M
:今までは素材の良さに甘えて誤魔化してきちゃったんですよ。自分の手に技術がないってことを。素材が良いから誤魔化せちゃった。塩振って油かけてシンプルで美味しいです、みたいな。確かにそうなんですけど、それは全てを知り尽くした上での削ぎ落とし方なんだなって。だから今、日本料理の勉強に月に一度東京に行っているんです。

 


橋本さん(以下H)
:そう思ったきっかけは何かあったのですか?

 


M
:この地域の食材を全然扱えていないなって気がついて。もっと美味しく扱いたいなと思った時に、知識と技術が必要なんだなって感じたんです。

どちらが正解とも思っていないんですが、いわゆる料理の学校に行ってという“正規”のアプローチとは逆を実践中という感じで、モチベーションはこの土地の食材をもっと扱いたいというところなんですよ。

 


I
:具体的にどのような食材なのでしょうか?

 


M
:魚とか。海なし県の長野ですが清流で育つ佐久鯉は名物だし、あと豆の料理とか。

職人館の北沢師匠に言われたのが、「材料が良い時も悪い時も農家さんと付き合っていくのがまず前提で、材料が良い時は何もしなくても良いけれど、悪い時にこそ技術が必要になる」って、その時はああそうなんだなと思っていたんですが、今その言葉が身に染みていて。あれ?この食材思っていたのと違うということがあった時に、引き出しがいっぱいあったほうが良いんだろうなって感じます。

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I:どちらかといえば橋本さんは左官の師匠について独立してといういわゆる“正規”のアプローチで進んできたと思いますが、この話についてはどう感じていますか?

 


H
:そもそも僕は、多くの人たちができない技術ということで土を扱い始めたんです。それが自分の正義であって、ここまできたんです。けれど最近思ったり感じたりすることは、どうしていきたいとか、誰に届けたいとか、そういう『想い』って技術じゃ超えられないと思っているんですよね。真理さんのように根があるところから必要な枝や葉、花に広がっていく人と一つの枝に向かってキューっと突き詰めていく人がいると思うのですが、時間が経てば経つほど、根からスタートしていないと、簡単に突き詰めていったその枝は折れてしまうんだなと感じているんです。

そういう意味でいうと10年ずっとその想いがあるっていうことが凄いことだなと感じます。料理を始めたきっかけやそれを地域に還元していきたいという想いが一貫しているじゃないですか。

 


I
:ポッドキャストの『Sprout!』で仰っていた話ですよね。

 


M
:わ、嬉しい聞いてくれている!

 


H
:自分を育ててくれていつもそばにあった佐久の風景を残したいっていうところ。そう、あれを聞いた時に本当に根をはっている人だなって。

だから想いがあってこその技術なんじゃないのかなと、それが自然じゃないかなって思うんです。自分が認められたいという方向性の技術じゃなくて。だって技術のその先ってそれ以上はない気がしていて。

だからね、真理さんは正規ルート!

 


M
:いやいや、それまで何もなかったですから、『無』。本当に『無』。

ずっと頼れる何かを探していたというのはあったけれど、その想いがふっと湧いてきたものだから。子どもの頃から一つのことだけをやっている人に憧れていたこともあったので。

 


I
:やっぱり職人肌なところがあるんじゃないですか。そうじゃなければ日本料理を学びに行かない気がします。

 


M
:あ、でもそれは素材の扱い、素材に対する敬意みたいなところからだから。

だからそこに共感したという感じで。名前が真理(しんり)って書くのでね。

 

 

次回に続く