上田から小諸を結んだ広域農道『千曲ビューライン』がある。同エリアを結ぶ国道ももちろんあるのだが、信号機に足止めを喰らうことも少なく、アップダウンや少し入り組んだ道なので、周りの自然の風景から季節を感じられる。道に慣れた大型トラックも通るのだが、ドライブやツーリングをするにはもってこいだ。この『千曲ビューライン』の道沿いの御牧原あたりに橋本左研・代表の橋本さんのご自宅があり、かくいう私も度々の打ち合わせと称し、この農道をドライブしがてら、今日はどんな話をしようかなど思いを巡らせつつ、日々変わる季節の空気を窓越しに楽しんでいる。
橋本さん宅は、以前『千曲ビューライン』沿いで喫茶店を営んでいた場所を譲り受け、リノベーションを施した。もちろん自ら土を使って。
空間の中に身を置くとまず目に入ってくるのが、一面が日干しレンガで作られた壁だ。
これは橋本さんが一つ一つ土と水を混ぜ干して作り、そして積み上げられている。どれも均等に混ぜ込みレンガとして成形されているのだが、乾かしてみると一つ一つの素材の色や風合いが異なっていたのだそう。橋本さんはそれをどこかもどかしそうに言っていたけれど、それらが再び壁面として積み上がると調和の取れた一つの景色に見えるのが面白い。それもそのはず、もとを辿れば同じ素材なのだから当然のことなのだ。そしてレンガの壁の反対側を見れば漆喰の白が壁一面に広がる。独特な白の色感を帯びているこの漆喰の白い壁を見ると日本人としての安堵感を感じるのが不思議なもので、ついつい見惚れてしまう。それは光が当たって白光りしている面だけでなく、その奥に広がっている影の姿に美しさを観て心を奪われているのかもしれない。人の手がかがったクラフト感、そして素材の微細なムラが自然光を乱反射させ、自ずから然らしむ(おのずからしからしむ)ように空間を優しく包み込んでくれている。
自らの“土の業”で仕上げた家に住んでみて、実際にどうかと橋本さんに尋ねてみたことがあった。すると橋本さんは、「空気と空気感が良い」と応えてくれた。空気感については先に挙げた素材が織りなすエレメントによるところが大きいのだろうが、もう一方の「空気」とはどういったことなのだろうか。改めて左官における土の役割について調べてみると、それは読んで字の如くairという意味合いの「空気」だった。塗り壁の“材料”としての「土」を作る際に、“素材”としての生の「土」に水を含ませる工程がある。この工程における水分量によって乾いたあとに空気中の水分を吸収したり吐き出したりする量が決まってくるそうだ。つまり、土の壁は家を覆う壁としてそこに存在するだけでなく、自然な形で呼吸をし、目には見えない空気中の湿度を調整してくれているのである。日本ではこの土壁の持つ特性を最大限に活かし、土蔵を書庫として活用していたことからもご理解いただけることだろう。
私たちは土からできたものを食べ、土から生まれたものに囲まれて生活している。
有史以来、私たちは土と共に生きてきた。
土に囲まれた家が人間にとって心地悪いはずがないのである。